2007年10月25日 策定
2014年3月 改訂案作成/2018年10月 改訂案作成/2019年4月 改訂案作成
私たちが所属する民医連は、「無差別・平等の医療と福祉の実現を目指す」(民医連綱領)組織です。
千葉民医連薬剤師政策は、民医連綱領の立場にたって「患者の立場に立つ医療・地域活動を実践する薬剤師をめざし」また、「病院・薬局あるいは医療介護施設内でも地域の中でも、あらゆる場面で活躍できる薬剤師となる」ことを目標として、一人一人が学び成長できるよう、また薬剤師集団としても成長するために策定します。
今、医療や福祉制度は「お金がかかり過ぎる」として、政府の政策は削減或いは伸びの抑制の方向が取られています。その一方で、労働者の給与は上がらず、リストラの危機に直面しながら過ごす方も少なくありません。貧困と格差が拡大し、度重なる制度改悪も相まって、医療への掛かりにくさが発生し、患者になれない人々が少なからずいます。それに対し、政府は地域包括ケアシステムを提起していますが、その内容は自助・互助・共助・公助がうたわれ、逆に公助の役割を狭めようとしています。医療・福祉の削減などの方針は、患者自己負担の増加・病床改編と数制限・公立医療機関の統廃合・国民保険料介護保険料の大幅引き上げ・入院から在宅への医療の流れなどにも現れています。それと反比例するように、製薬企業の好業績・外資系保険会社の医療保険業績伸張の実態があります。
薬局に目を移すと、全国医薬分業率は平成28年度平均71.7%%(秋田86.9%、福井49.4%)と大きく伸びましたが、反面、平成30年度調剤報酬改定では医薬分業コストバッシングにより大きく報酬体系が切り下げられました。大手資本を基軸とした薬局は、出店攻勢と薬剤師集めを進めていますが、平均就労年数が5年足らずとなっています。近年の資本提携報道にみられるように店舗の統廃合が活発となり業界再編の時期に来ています。薬局に調剤以外の地域貢献が求められるようになり、その一つとして2017年より健康サポート薬局制度が始まりました。セルフメディケーション推進の一環となるべくほぼ全分野に渡るOTC医薬品の取り扱いと地域活動へ参画が求められています。
病院においては、調剤(医薬品供給)中心・患者さんにはお薬をお渡しするだけの業務から、ベッドサイドの服薬指導やミキシング調剤、そして処方コンサルトや有効で安全かつ経済性のある医薬品使用の事務局の役割を果たすなど、大きく業務が変化してきました。今後も、多職種を含めたチーム医療の中で、そうした役割が大きく期待されています。
製薬業界の問題として、イグザレルト問題やディオバン問題等、医薬品を作り世に送り出す側の倫理が問われる事件も起きています。商品としての面を持つ医薬品に対して、私たちは製薬企業から発信される情報やデータを正しく判断、また、厳しく批判する目を持つ必要があります。また、後発推進政策により後発医薬品の需要は伸びましたが供給において不安定さがあります。
薬学教育6年制が2006年にスタートしました。4年制教育では無かった6ヶ月に亘る実務実習が取り入れられ、医療の中で役割を発揮する薬剤師教育に力を入れることが示されました。病院・薬局では、実務実習認定薬剤師を中心に22週間にわたる実務実習受け入れを着実に実践してきました。
薬剤師に対して社会の期待は、薬局においては調剤業務を基本としつつも在宅医療や地域の住民への健康教育(セルフメディケーション含む)にも向かっています。病院においては医薬品の専門家として、チーム医療の中で安全な医薬品使用や経済性効率性も加味した適正な医薬品使用を推進する職種としての役割を期待されていると言えるでしょう。
民医連薬剤師はそれらの期待を踏まえつつ、あくまでも患者さんの立場にたった薬剤師として活動していくことを目指します。
(この情勢の学習には参考となる書籍がいくつかあります。機会をみて個々に学習を深めましょう。)
2019年4月時点 常勤薬剤師75名 非常勤薬剤師37名
本 社
3名(10~20年未満1名 20年以上2名)
病 院
20名(3年未満1名 3~10年未満12名 10~20年未満3名 20年以上4名)
薬 局
52名(3年未満12名 3~10年未満9名 10~20年未満14名 20年以上17名)
年齢平均
42.6歳
勤続平均
13.5年
2008年度~2018年度 入職者57名 退職者50名(うち定年11名) 退職率6.5%
2019年4月時点の奨学生13名(6年4名・5年1名・4年4名・3年2名・2年1名・1年1名)
医薬分業が開始された1970~80年代に薬剤師の職能発展に力を注いで努力してきた第一世代薬剤師の退職時期が始まり世代交代を一歩ずつ進めている途上にあります。新人薬剤師、中堅薬剤師、管理者薬剤師それぞれにステップアップの手法が求められています。確実な後継者育成プログラムが必要な時代です。さらに民医連職員として健康格差を生み出す社会的要因SDHの視点を備え、「医療・介護活動の2つの柱」を軸に活躍できる薬剤師を目指すものです。
私たちは、過去の薬害事件の教訓を忘れることなく、製薬企業から発信される情報やデータを正しく判断、また、厳しく批判する目を持つ必要があります。薬の本質を探る力を養うために、新薬評価委員会を継続し、県連事業協薬事委員会の議論に重みと厚みを加えましょう。その成果を日々の業務に生かして、医薬品を評価する力をつけて行きましょう。新しい薬剤が時々刻々と上市され、十分な評価検討が行われぬまま市場に展開される危険性を危惧し、積極的に新薬の本質を学んでいきましょう。
薬事委員会機能が充分に発揮されることにより、薬剤使用の安全性が高まり医療の質が向上すると考えます。事業協薬事委員会に結集して各事業所の薬剤使用の要となりましょう。また、2007年4月の医療法改定において、医療機関では『医薬品安全管理者』の設置が義務付けられました。薬剤師が担うべき新たな業務が発生しています。リスクマネージャーとしての活躍も求められています。ひやりはっと事例報告集約事業が日本医療機能評価機構によって行われており、保険薬局においては事業に参加し報告活動を行う事が薬局の地域支援体制加算算定要件になっています。医療の安全性向上のため積極的に参加しましょう。
高齢者の薬物療法において、疾患が重複することによるポリファーマの問題は、薬物治療による安全性の問題のみならず医療費増大を抑止するためにも薬剤師の職能発揮が望まれる分野です。服薬数が増えるほど副作用の発生リスクが増大し、飲まれなかった薬は残薬として無駄に廃棄されている実態もあります。在宅の場でも、訪問宅で大量の残薬を発見することは珍しくなく、入院してくる患者の持参薬には、服薬していないものも含まれその区別が出来ないまま投薬すると、思わぬ臨床症状を招くリスクを含んでいます。日本高齢医療学会が提唱した飲むべき薬(START薬)とやめるべき薬(STOPP薬)等も参考にし実践に生かしましょう。そのために、患者さんやそのご家族とのコミュニケーションを密接に結び信頼される薬剤師になりましょう。
START薬:Screening Tool to Alert to Right Treatment
STOPP薬:Screening Tool for Older Person’s appropriate Prescriptions
がん、感染制御、栄養管理などの分野で、在宅医療における薬剤師の職能発揮が求められます。高齢社会が深刻化するなか、医療機関で終末を迎える事例が少なくなることが予想されます。施設入所者の服薬支援や在宅における疼痛コントロールや栄養管理、褥瘡治療、感染対策など在宅医療で、関わるすべての職種と協力しながら薬剤師の力を発揮しましょう。
サプリメントや漢方薬、スチッチOTC、健康器具など市場では国民が自らの判断で利用するものが多くあります。その手助けとして薬剤師の力が求められます。薬局薬剤師が必要であると判断した場合、医療機関へ受診勧奨するなど、スクリーニングの能力も求められるでしょう。全国的にもまだ少ない健康サポート薬局として、共同薬局とすこやか薬局は活動しています。共同薬局では共同組織である友の会と協力し、健康講座開催やヘルスステーション(簡易体調チェックシステム)の設置を行っています。小規模薬局でも健康サポート薬局機能を重視し、最低1名は健康サポート薬局研修を受講することを目標にしています。病院薬剤師も含め班会への参加は、地域の人々の命と健康を守る活動です。薬剤師から健康増進策を提案し、生活改善により慢性疾患の要因となりうる生活習慣の乱れを未然に防ぐことで、医療の担い手になりましょう。
処方箋に検査値が併記される時代になりました。薬剤師が患者さんの状態を理解するために、検査内容そのものの知識が必要です。患者さんから検査データの説明を求められる場面も少なくありません。薬物療法の効果を判定し、副作用の発現有無を察知するために検査値の学習をしましょう。
電子薬歴は多く採用されていますが、運用が始まっているスマホ版電子お薬手帳が、紙のお薬手帳から移行する速度は予測が付きません。スマホ普及率は若年代層では9割を超えていますが、高齢者層での普及は乖離しています。処方箋応需方法もFAXから、メール添付送信応需に移行することも予想され、現実的に運用も始まっています。
さらにインターネット服薬指導が具体化されています。インターネット診療は実現しています。処方箋形態の電子化も将来的には実現されると、薬局の業務形態も大きく変わる可能性もあります。
6年制教育では半年の実務実習を経験し臨床に即した教育が強化されています。しかしながら臨床現場に対応するための十分な初期研修は重要と考え、入職後おおむね2~3年間を初期研修期間と設定し「あらゆる場面で活躍できる薬剤師」研修のスタートをきります。この時期には初期研修委員会に所属します。千葉民医連制度教育研修(新入一次・新入二次・2~3年目研修)に参加し、社保活動等に参加することを通じて千葉民医連の職員として患者本位の医療を実践し経験します。この期間は原則として大規模保険薬局に所属します。就労環境を整え社会人のマナーもこの時期に獲得できるよう支援します。
病院での研修とします。県連制度教育研修(4~5年目研修・6年目以降研修)に参加し、初期研修委員会のチューターも務めます。
基本的には中小規模保険薬局で研修します。薬剤師としての力量も高まり、職場を引っ張っていく人員の一人として活躍できるでしょう。中小規模薬局では対応医療機関ともよりきめ細かく連携をとる薬局活動を経験できると考えます。県連制度教育研修(6年目以降研修)に参加し、初期研修委員会のチューターも務めます。
職責者を支え、若手薬剤師を育成し自らも研鑽を重ね、職場の中堅として活動します。勤務場所は、薬剤部の時々の事情、及び各個人の事情も考慮して配置を決めます。県連制度教育研修(6年目以降研修)に参加し、初期研修委員会のチューターも務めます。
入職までの経験や年齢もさまざまですが基本的には共同企画内・勤医協内、また両機関を通したローテーション・また見学研修等で、新卒同様「あらゆる場面で活躍できる薬剤師」を目指します。
中途採用にて保険薬局に入職した既卒職員は、病棟研修プログラム(『新任薬剤師研修計画表』あるいは『病棟薬剤師業務力量チェック表』を参考に新たに策定します。)に基づいての研修機会を追求します。同じく中途採用にて病院に入職した既卒職員は、一定時期に保険薬局への異動を追求します。薬剤部会議に情報を集中し研修計画を立てていきます。
管理者を助け職場運営に尽力します。県連制度教育研修(主任・職責)に参加します。薬剤師部会活動において委員会活動の委員長となる機会も増えると思われます。事業所において職責として職場運営の課題に取り組みます。
管理者としての基本的な実務を学び、職場責任者として事業所の経営問題に取り組みます。県連制度教育研修(管理者)に参加します。職員の育成面接を行います。薬剤部会議に参加し、部会活動や人事等、集団的な論議に参加します。
育成面接は少なくとも年1回実施します。必要に応じ、年度途中に2回目の育成面接を設定し、進捗度の確認、更なる方向性の明確化を図る場合もあります。ローテーションに絡む内容は薬剤部会議に集約して調整します。育成面接の記録は育成ファイルに蓄積し、自己研鑽の成果として保管します。県連教育委員会の各種研修に参加した感想文も育成ファイルに保管します。ローテーションは組織を活性化することの大きな要因でもあり、個々のモチベーション向上や薬剤師としての経験値を高めるために重要であると考えます。
外部の学会等への発表をしましょう。業務をまとめてアウトプットすることで、多くの気付きが得られ、また話す力がつきます。
新規薬剤の使用経験・副作用調査報告・新しい業務展開の実践など日々の業務で医師を初め多職種と協力し業務をまとめる力を養いましょう。
発表した内容は全体部会や個々の薬局部会や病棟部会で発表しあい、論議を深め情報を共有して学習していきましょう。
専門薬剤師やかかりつけ薬剤師を取得するために必要な要件である研修認定薬剤師を全員が取得することを目指します。自己研修(自宅での文献抄読・資料作成)グループ研修(院内学習会参加)外部研修(薬剤師会主催研修会・学会参加・演題発表など)に積極的に取り組みましょう。保険薬局においてかかりつけ薬剤師であることは、患者さんの薬物療法の経過と結果に責任を持つ民医連薬剤師の理念に合致し、モチベーションにも通じるものです。また、病院での各種専門薬剤師取得は、医療レベル向上につながり薬剤師の役割を拡げます。
薬学部4年制教育であった従来から病院・保険薬局ともに薬学生の実習をいろいろな場面で受け入れて来ました。単位取得実習として保険薬局や病棟での2週間~1ヶ月程度の実習です。現在は関東地区実務実習調整機構のマッチング制度からの依頼をもとに薬局・病院とも5年次に各11週間の実務実習が実施されています。また、薬学対の取り組みとして低学年での早期体験見学、高学年ではインターンシップを通じてより実践的な学習の手助けをしています。実習からのつながりで就職に結びついた事例も少なくありません。県連医系学生委員会を軸として開催している高校生を対象とした医療現場体験は後継者対策として充実させていくべき取組みです。実務実習を受け入れるにあたり、新モデルコアカリキュラムで教育手法を学び単位取得のための評価をしています。各事業所に最低1名の実務実習認定薬剤師を配置することを目標としています。実習は、認定実務実習薬剤師を中心に受け入れ事業所の薬剤師集団として他職種との関わりも含め民医連薬剤師の卵を育成していく視点を持ちましょう
船橋二和病院5名
共同薬局5名 すこやか薬局2名 ふれあい薬局1名 こすもす薬局1名
船橋二和病院(Ⅱ期1名・Ⅲ期2名)
共同薬局(Ⅰ期2名・Ⅱ期2名・Ⅲ期2名)
すこやか薬局(Ⅰ期1名・Ⅲ期2名) ふれあい薬局(Ⅱ期1名)
薬学部6年制により学費負担も増大した結果、奨学金を必要とする学生が多くなりました。私学6年間で1500万円に上る学費が必要となります。月額5万円の奨学金を運用する目的は、後継者対策でありこれらの奨学生を育成する必要があります。千葉県には6つの薬学部があり2012年には薬学対専任職員を配置し、千葉民医連薬学奨学生への関わりを現場の薬剤師と協力し、強めてきました。医系学生担当会議とも連携しています。地元の千葉大学の薬学生にも、薬局アルバイトや早期体験学習でつながりを持っています。薬学生委員会で奨学生会議を毎月企画し、広く医療全般や薬学分野の学習と合わせ、現場薬剤師、奨学生同士の交流を図り、どのような薬剤師を目指すのかを語り合うことを行っています。その中で千葉民医連薬剤師集団が目指す方向に共感し、一緒に働く具体的なイメージを持ち入職に至る奨学生を育てます。継続的な後継者確保目的のため、各学年複数名の奨学生を持ちます。
歴史的に繰り返されてきた薬害問題に対し、『薬害を二度と繰り返さない』を方針として、私たちは『患者の声を聞く、患者の生活の場に立って医療を考える』視点に立ち取り組んできました。また、自らの薬物治療の安全性についても「さらなる薬事委員会機能発展のために」(全日本方針)に基いて取り組んできました。薬の専門家として、私たちの英知を集約して薬物療法に薬剤師としての誇りと責任を持ちましょう。企業の営利路線を許さず『真に有用な薬剤を見抜ける目』を養いましょう。世論に訴える啓蒙活動については裁判傍聴・署名集め・原告の声を聞く学習会開催・薬害根絶デーへの参加など今まで活動経験を生かし、さらに発展的に取り組んでいきましょう。
薬剤師のリスクマネージャーが活躍している医療機関もふえ、安全管理に尽力しています。千葉民医連は、歴史的に薬剤師がリスクマネージャーを担っており薬剤師の活動の一つの分野と考えられます。今後も全体の医療安全の前進のために薬剤師集団全体で進めていきましょう。
患者の安全を守る薬剤師の活動に不可欠な他職種や他事業所との連携があります。入院患者も外来患者も在宅患者も、薬剤が使用されている患者の安全性には、すべて薬剤師が関与する必要があります。処方医との連携、薬剤師同士の連携、看護師・医事等との連携がどの事業所の薬剤師にも求められます。とりわけ医師との連携は重要であり、医師からも「あの薬局なら安心して処方箋を出せる」「入院患者の副作用も薬剤師がチェックしてくれる」とより信頼される薬剤師を目指しましょう。規模の拡大、業務の煩雑化等も影響し、どの事業所においても医師との日常的なコミュニケーションが困難になりつつあります。特に大規模薬局においては、タイムリーにダイレクトに医師に直接問い合わせる事も困難な事例が多いと思われますが、円滑にコミュニケーションをとる工夫をしましょう。より積極的に処方医と直接コミュニケーションをとる事で医療者間の信頼関係が深まり、ひいては患者からの信頼も深まると考えます。そして薬剤師自身にも医療の一員としての自覚が深まり、成長していけると考えます。
薬剤師業務を通じてキャリアを積み上げていく中、各々自らの人生の長いスパンを民医連で過ごしていきます。民医連は医療を通じ誰もが人権を尊重され、安心して生きていける平和な社会を目指している集団です。同じ事象を目の前にした時、出来るだけその感性が同一方向を向いていること、使命感を共有できること、弱い立場に寄り添える人間であることが、個々の力を何倍にも増幅し集団化により確信をもって行動できる力になると考えます。一人一人では微力であっても無力ではありません。仲間と共に進んでいきましょう。
今後、薬剤師の社会的立場も職能も変化を見せる時代になるでしょう。
社会が私たち薬剤師に求めるものを鋭敏に察知し、応えていくことで今まで築いてきたものをさらに押し上げた活動が展開できる可能性があります。
千葉民医連薬剤師部会全員の英知を結集して薬剤師活動を更に発展させていきましょう。